第2回「文化財と信仰」研究会2020.9.15
2020年9月15日に奈良県桜井市の法栄寺(法華宗)様で開催した研究会の報告をいたします。本会の座長・木村良勢師からのお話と、奈良新聞に掲載された記事のご紹介をさせていただきます。
木村先生は、かねてより、崇拝対象文化財の保存・展示方法の改革を訴えておられました。具体的には、現状のモノを基盤とした「物体保存・展示」から生きた信仰文化をも対象とする「動態保存」へシフトしていくことです。つまり仏像、仏画、神像などの有形文化財に伴う法要などの祈りの形態も含めて、有形・無形の全体を保存・展示していこう、ということです。前回の研究会(本年1月25日 京都市内の「玄想庵」で実施)では、木村師よりこの件について参加者(10名ほどで、僧侶及び文化財制作・修復に関する職人さんなど)に「動態保存のすすめ」という内容のご提言をされました。また、ゲストの研究者・檜山智美氏からは海外の事例についてご紹介をいただきました。この会で参加者全体が賛同の意見でまとまったことから、9月の会では、木村師と檜山先生のご指導の下に、実際の動態保存のあり方や、その延長戦上にある展示方法などについて具体的な議論をすることになりました。
当日は国宝・重要文化財所有の寺院副住職、県文化財所有の神社宮司、博物館学芸員、重要無形文化財の指定を受けている能楽師、彩色師、茶道家、博物館文化財学専攻の大学院生など文化や文化財に関わる皆様が集ってくださり、4名の先生からご発表を賜り、他の参加者からも熱心なコメントをいただきました。(4名の先生のご意見の要約は、下の奈良新聞の写真でご覧になれます)
さて座談会冒頭での、木村先生のお話をご紹介いたします。先生は「蔵論」(くらろん)をヒントに動態保存のあり方をご提唱されました。蔵論の正式名称は「文化遺産保管庫論」です。矢田俊文新潟大学名誉教授が新潟中越地震の際、歴史資料のレスキュー活動の中で確立された文化財の保護システムで、蔵全体を保管する、あるいは安全な場所にいったん中身を丸々移動させ、のちに専門家が分類して、必要なラベリングを行っていく方法です。貴重な史料や文化財の散逸を防ぐため編み出された方法です。これによって古物商などからの乱暴な買い取りを防ぎ、現地に文化を復興させる意義をもちます。木村先生はこの「蔵論」をヒントに、崇拝対象文化財の「動態保存」を定義したいとおっしゃいました。その理由として「現状の日本仏教では行法、法要、声明など多くの面で省略して実践される傾向にある。一度変化してしまったものを復興させることが困難になっており、元の形も見失っていってしまう」という危機感があります。先生のお考えになる「動態保存」とは、以下の通りです。
1 崇拝対象を内包している建造物ごと全方向的に記録する。
2 崇拝対象に対して行われる宗教行事も同様に、詳細まで記録する。
3 この有形・無形両面の記録を併せて動態保存の基本とする。
4 各宗教によって、最も大切なモノが異なるのでそれに合わせ、部分の精密調査を行い補足する。
5 崇拝対象の変遷(transition)した過去がある場合は、十分留意すること。Ex)寺院であれば檀家だけでなく講や様々な信仰団体の連合であること等
6 宗教行事を記録する際は真正性に留意する(Ex)時代や参詣者都合等により短縮や省略・宗派による統一化がある場合が多い
7 各施設における伝承等は歴史として認識し文化として敬意を持つEx)神武天皇御東征等
8 災害等で万が一失われても再び文化が復興できるよう保存する。
※5~8は会終了後の補足です。なおこの会は、継続していく予定です。